分解型複素数の基礎

分解型複素数(Split complex number)は1850年頃に発見された数の世界。(詳しくはWikipediaを参照.)

$\pm 1$ではない$\sqrt{1}$を仮定して \[a + b \sqrt{1} \quad (a,b \in \mathbb{R}) \] を分解型複素数とよぶ。 以下では分解型複素数全体の集合を \[ \mathbb{D} = \{ a + b \sqrt{1} \mid a,b \in \mathbb{R} \} \] とおく。

四則

割り算以外は特に注意する必要はない。$\sqrt{1}^2$ があらわれたら $1$ とすれば良いだけ。

例1.

\[(a+b\sqrt{1})+(c+d\sqrt{1}) = (a+c) + (b+d)\sqrt{1} \]

例2.

\[(a+b\sqrt{1})(c+d\sqrt{1}) = (ac+bd) + (ad+bc)\sqrt{1} \]

割り算は分母を有理化して考えれば良い。

\[\frac{1}{a+b\sqrt{1}} = \frac{a-b\sqrt{1}}{a^2-b^2} \]

ただし、分母は0になっていはいけないので、割り算を考えるには $a\neq \pm b$ という条件が必要。

基底

\[e_1 = \frac{1+\sqrt{1}}{2}, \quad e_2 = \frac{1-\sqrt{1}}{2}\]

とおくと、

\[e_1 + e_2 = 1, \quad e_1\cdot e_2=0, \quad e_1^2=e_1,\quad e_2^2 = e_2\]

が成立する。これらの関係式を用いると

\[(ae_1 + be_2)(ce_1+de_2) = ace_1 + bde_2 \tag{1} \label{aece}\] が成り立つことが容易にわかる。この積の性質から

\[ (a e_1 + b e_2)^n = a^n e_1 + b^n e_2 \quad (a,b \in \mathbb{D}) \tag{2} \label{aean} \]

も得られる。

次の記法を用いると便利。

\[[a,b] = a e_1 + b e_2\]

これを用いれば、\eqref{aece}と\eqref{aean}は

\[[a,b]\cdot[c,d] = [ac,bd], \quad [a,b]^n = [a^n,b^n] \]

のように簡潔に書ける。

指数関数

集合 $\mathbb{D}$ 上の指数関数はべき級数で定義する。 \[ e^z = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{z^n}{n!} \quad (z \in \mathbb{D}) \]

右辺は、実部と虚部が同時に収束するときに、収束すると定義する。

このとき以下が成立する。

定理

\[ e^z = e^x(\cosh y + \sqrt{1} \sinh y) \quad (z=x+\sqrt{1}y \in \mathbb{D}) \]

証明

関係式 \[(x+\sqrt{1}y)^n = \frac{1}{2}\bigl((x+y)^n+(x-y)^n \bigl) + \frac{\sqrt{1}}{2}\bigl((x+y)^n-(x-y)^n\bigl) \]

に注意して、和を取れば容易。

\[ e^{\sqrt{1}x} = \cosh x + \sqrt{1} \sinh x \quad (x\in \mathbb{R})\]

証明.

定理において、$x=0$とおいて、$y$を$x$に書き直せば得られる。

系の$x$のかわりに$z \in \mathbb{D} $としても成立する。

系の一般化

\[ e^{\sqrt{1}z} = \cosh z + \sqrt{1} \sinh z \quad (z\in \mathbb{D})\]

証明.

\begin{align} \text{左辺} = e^{\sqrt{1}z} = e^{\sqrt{1}x+y} = e^y (\cosh x + \sqrt{1} \sinh x) \end{align}

双曲線関数の加法定理(後述の定理により示せる)を仮定すれば

\[\cosh z = \cosh (x+\sqrt{1}y) = \cosh x \cosh y + \sqrt{1} \sinh x \sinh y\] \[\sinh z = \sinh (x+\sqrt{1}y) = \sinh x \cosh y + \sqrt{1} \sinh y \cosh x\]

が得られる。したがって右辺は

\begin{align} \cosh z +\sqrt{1} \sinh z &= ( \cosh x \cosh y + \sinh y \cosh x) + \sqrt{1}(\sinh x \sinh y+\sinh x \cosh y)\\ &= (\cosh x) ( \cosh y + \sinh y ) + (\sinh x) \sqrt{1}(\sinh y+\cosh y)\\ &= e^y \cosh x + (\sinh x) \sqrt{1} e^y \\ &= e^y \bigl( \cosh x + \sqrt{1} \sinh x \bigl) \end{align}

となり、証明が完了する。

Note. $\mathbb{D}$上の指数関数においても加法公式

\[ e^{z+w} = e^z e^w \quad (z,w \in \mathbb{D}) \]

が得られる。

一般化

前節の議論を一般化する。

定理

\[f(z) = \sum_{n=0}^\infty c_n z^n \quad (z=x+\sqrt{1}y \in \mathbb{D}) \] とおき、次の二つの級数の収束を仮定する。

\[ f(x+y) = \sum_{n=0}^\infty c_n (x+y)^n \quad (x,y \in \mathbb{R}) \] \[ f(x-y) = \sum_{n=0}^\infty c_n (x-y)^n \quad (x,y \in \mathbb{R}) \] このとき、

\[f(z) = \frac{1}{2}\bigl(f(x+y)+f(x-y) \bigl) + \frac{\sqrt{1}}{2}\bigl(f(x+y)-f(x-y)\bigl) \quad (z=x+\sqrt{1}y \in \mathbb{D}) \]

が成立する。

証明

前節と全く同じ。関係式

\[(x+\sqrt{1}y)^n = \frac{1}{2}\bigl((x+y)^n+(x-y)^n \bigl) + \frac{\sqrt{1}}{2}\bigl((x+y)^n-(x-y)^n\bigl) \]

に注意して、和を取れば良い。

応用

前節の定理の応用例を見る。

$\sin z$ をべき級数で定義すると、次が得られる。

\begin{align} \sin(z) &= \frac{1}{2}\bigl(\sin(x+y)+\sin(x-y) \bigl) + \frac{\sqrt{1}}{2}\bigl(\sin(x+y)-\sin(x-y)\bigl) \quad (z=x+\sqrt{1}y \in \mathbb{D}) \\ &= \sin x \cos y + \sqrt{1} \sin y \cos x \quad (z=x+\sqrt{1}y \in \mathbb{D}) \tag{3} \label{eq:sscsq} \end{align}

三角関数をべき級数で定義すると

\[\sin (\sqrt{1}x) = \sqrt{1} \sin x \] \[\cos (\sqrt{1}x) = \cos x \]

であるから、関係式 \eqref{eq:sscsq} は

\[\sin(x+\sqrt{1}y)= \sin x \cos (\sqrt{1}y) + \sin (\sqrt{1}y) \cos x \]

が成立することを示している。要するに普通に加法公式が利用できるということである。 双曲線関数においても同様。