$ \zten $ における逆数

$ n \in \zten $ の $ n $ の一桁目が $ 10 $ と互いに素であれば、 \[\frac{1}{n} \in \zten \] が成立するが、今回は、これをどのように求めればよいのかについて調べる。
例. \[ \frac{1}{3} = \cdots6667 \in \zten \] \[ \frac{1}{7} = \cdots \overline{285714}3 \in \zten \]

筆算による方法

$ \zten $ の世界でも筆算を行うことで割り算が可能である。しかし、実数の世界の割り算の方法とはずいぶん勝手が違う。 詳細は はてなブログ に述べたので、そちらを参照してほしい。

$ \cdots $ 4 2 8 5 7 1 4 3
7 1
2 1
$ \cdots $ 9 9 9 9 9 9 9 9 9 8 0
2 8
$ \cdots $ 9 9 9 9 9 9 9 9 7 0
7
$ \cdots $ 9 9 9 9 9 9 9 9 0
4 9
$ \cdots $ 9 9 9 9 9 9 5 0
3 5
$ \cdots $ 9 9 9 9 9 6 0
5 6
$ \cdots $ 9 9 9 9 4 0
1 4
$ \cdots $ 9 9 9 8 0
2 8

べき級数を用いる方法

実数の世界では \[ \frac{1}{1-x} = 1 +x + x^2 + x^3 + \cdots \qquad ( |x|< 1 ) \] が成立するのであるが、 $ \zten $ の世界でも、条件は違う が同じ等式 \[ \frac{1}{1-x} = 1 +x + x^2 + x^3 + \cdots \qquad ( \mbox{ $ x $ が $ 10 $ で1回以上われる}) \] が成立する。 なぜこれが成り立つかの前に、右辺の級数 \[ 1 +x + x^2 + x^3 + \cdots \] が「条件: $ x $ が $ 10 $ で1回以上われる」の下で収束することを確認しよう。 $ \zten $ で収束するというのは、要するに一桁ずつ決定していくということである。 これは具体例を見ればわかりやすい。例として $ x=10 $ とすると、 \[ 1 + x + x^2 + x^3 + \cdots = 1+ 10 + 100+1000+\cdots = \cdots1111 \] というように和を増やすごとに一桁ずつ決定していく、つまり収束する様子が見て取れる。 (これは実数のケースよりも単純だ。) \[ \cdots 1111 = -\frac{1}{9} \] と有理数に直せるので、 \[ \frac{1}{1-x} = 1 +x + x^2 + x^3 + \cdots \] が $ x=10 $ のケースで成立することが確認できる。 もう少し厳密な議論をすれば、 \[ (1-x)(1+x+x^2+\cdots+x^n)=1-x^{n+1} \] が成立し、 $ x $ が $ 10 $ で割り切れれば、 $ x^{n+1} $ は $ 10 $ で $ n+1 $ 回割れるので「 $ \zten $ の距離において」 $ x^{n+1} $ は $ 0 $ に収束する。 よって、極限を考えれば、 \[ (1-x)(1+x+x^2+\cdots)=1 \] が得られる。これは \[ \frac{1}{1-x} = 1+x+x^2+\cdots \] を意味する。

では、実際に \[ \frac{1}{1-x} = 1 +x + x^2 + x^3 + \cdots \qquad ( \mbox{ $ x $ は $ 10 $ で1回以上われる}) \] を用いて、逆数を計算しよう。

注:「条件: $ x $ が $ 10 $ で1回以上われる」は大事だ。 $ x=-2 $ として、 $ 1/3 $ を求めようとしても $ x=-2 $ はこの条件を満たさないから、 \[ \frac{1}{3} = 1-2+(-2)^2+(-2)^3+\cdots \qquad \mbox{( $ \zten $ でも収束しない!)} \] とはできない。 $ x=10 $ や $ x=20 $ あるいは $ x=300 $ など、少なくとも1回 $ 10 $ で割れるような数でないといけない。

例題1. \[ \frac{1}{11} \] を $\zten$ の世界で求めよ。

解答. \[ \frac{1}{1-x} = 1 +x + x^2 + x^3 + \cdots \qquad ( \mbox{ $ x $ が $ 10 $ で1回以上われる}) \] において、 $ x=-10 $ とすると、 \begin{align} \frac{1}{11} &= 1-10+10^2-10^3+10^4-\cdots\\ &= 1-10+100-1000+10000\cdots\\ &= 1+90+9000+\cdots \\ &=\cdots909091 \\ &= \overline{90}1 \end{align} となる。 実際 \[ 11 \times (\cdots 909090901) = \cdots0001 = 1 \] を筆算して確認することができる。

例題2. \[ \frac{1}{3} \] を $\zten$ の世界で求めよ。

解答. \[ \frac{1}{1-x} = 1 +x + x^2 + x^3 + \cdots \qquad ( \mbox{ $ x $ が $ 10 $ で1回以上われる}) \] において、 $ x=-2 $ とすることはできないのは、すでに述べたとおりである。すこし工夫が必要である。 左辺の分母を直接 $ 3 $ にするのはあきらめて、因数に $ 3 $ が現れるようにしよう。そうすれば、 $ 3 $ 以外の因数を両辺にかけることで $ 1/3 $ の表示式が得られる。「分母 $ 1-x $ の因数に $ 3 $ があらわれる」というのは数式でいえば \[ 1-x \equiv 0 \mod 3 \] ということになる。条件として、 $ x $ は $ 10 $ で割れないといけないから、 $ x=10k $ とおくと、 \[1-10k \equiv 0 \mod 3\] をみたす $ k $ を求めることになる。 \[ 10k \equiv 1 \mod 3 \qquad \iff \qquad k \equiv 1 \mod 3 \] だから、 $ x=10 $ とすれば、OKだ。 \[ \frac{1}{1-10} = 1+10+10^2+\cdots=\cdots1111 \] よって \[ -\frac{1}{9} = \cdots1111 \] が得られるが、両辺を $(-3)$ 倍すれば \begin{align} \frac{1}{3} &=-3\times(\cdots11111) \\ &= -(\cdots33333) \\ &= -1-(\cdots33332) \\ &= \cdots9999-(\cdots33332)\\ &= \cdots66667 \end{align} が得られる。

例題3. \[ \frac{1}{7} \] を $\zten$ の世界で求めよ。

解答. やはり \[ \frac{1}{1-x} = 1 +x + x^2 + x^3 + \cdots \qquad ( \mbox{ $ x $ が $ 10 $ で1回以上われる}) \] において、 $ x=-6 $ とすることはできないので、同じ工夫をする。 左辺の分母を直接 $ 7 $ にするのはあきらめて、因数に $ 7 $ が現れるようにしよう。「分母 $ 1-x $ の因数に $ 7 $ があらわれる」 というのは数式でいえば \[ 1-x \equiv 0 \mod 7 \] ということになる。条件として、 $ x $ は $ 10 $ で割れないといけないから、 $ x=10k $ とおくと、 \[1-10k \equiv 0 \mod 7\] をみたす $ k $ を求めることになる。 \[ 10k \equiv 1 \mod 7 \qquad \iff \qquad 3k \equiv 1 \mod 7 \qquad \iff \qquad k \equiv 5 \mod 7 \] だから$k=5$とすると ($k=-2$としても良い.) $ x=10\cdot 5 = 50 $ となる。 \[ \frac{1}{1-50} = 1+50+50^2+50^3+50^4+\cdots \] で両辺を(-7)倍すれば \[ \frac{1}{7} =-7 \times(1+50+50^2+50^3+50^4+\cdots ) \] が得られる。右辺は、10進数表示すれば循環するはずであるが、実際にそれを調べるのは大変である。 ここでは、この式から最初の $ 3 $ 桁を計算してみよう。 \begin{align*} \frac{1}{7} &\equiv -7 \times(1+50+50^2) && \mod 1000 \\ & = -7 \times(1+50+2500) \\ & \equiv -7 \times(1+50+500) && \mod 1000 \\ & = -7 \times 551 \\ & = -3857 \\ & \equiv -857 &&\mod 1000 \\ & \equiv 143 &&\mod 1000 \\ \end{align*}

例題4. \[ \frac{1}{19} \] を $\zten$ の世界で求めよ。

解答. これも同様の工夫が必要である。 \[ \frac{1}{1-x} = 1 +x + x^2 + x^3 + \cdots \qquad ( \mbox{ $ x $ が $ 10 $ で1回以上われる}) \] 左辺の分母が$19$を因数に持つようにするために、$x=10k$とおいて \[ 1-10k \equiv 0 \mod 19 \] を満たす $k$ を求めると $k \equiv 2$ が得られるから $k=2$ として計算する。 このとき $ x=10\cdot 2 = 20 $ となる。 \[ \frac{1}{1-20} = 1+20+20^2+20^3+20^4+\cdots \] よって \[ -\frac{1}{19} = 1+20+20^2+20^3+20^4+\cdots \] が得られる。

$2$べきを一つずらして足した和

上の議論で \[ -\frac{1}{19} = 1+20+20^2+20^3+20^4+\cdots \qquad \mbox{$\rm$(Eq.A)} \] が得られたが、この右辺は \[ 1+20+20^2+20^3+20^4+\cdots = 1+2\cdot 10 + 2^2 \cdot 100 + 2^3\cdot 1000+ 2^4\cdot 10000+\cdots \] となっているから、$2$べきを一つずらして足した和になっている。

$1$
$2$ $0$
$4$ $0$ $0$
$8$ $0$ $0$ $0$
$1$ $6$ $0$ $0$ $0$ $0$
$3$ $2$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$
$6$ $4$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$
$1$ $2$ $8$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$
$2$ $5$ $6$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$
$5$ $1$ $2$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$
$1$ $0$ $2$ $4$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0$ $0 $ $0$ $0$
$+$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$
$\cdots$ $7$ $8$ $9$ $4$ $7$ $3$ $6$ $8$ $4$ $2$ $1$

$2^{10}$まで足すと、上の表のように$1$の位から見て$11$桁決まる。 このように計算していくと、収束することは予期できるものの、その規則性を知ることは難しいし、 循環するかどうかさえすぐにはわからない。しかしながら、(Eq.A)によれば、これは$-1/19$に収束するわけであるから、 有理数は必ず循環するという事実を用いれば、この列もやはり循環するということになるし、 実際に$-1/19$を$\zten$において計算することで、どのような列が現れるかもわかるということになる。 すこし計算は大変であるが、筆算によってこの有理数を計算してみると次のようになる。 \begin{align} \frac{1}{19} &= \cdots 894736842105263157 8947368421052631579 \\ &= \overline{894736842105263157}9 \end{align} したがって、周期$18$で循環することが分かる。2べきを一つずらしで足した和はこれを$-1$倍したものだから、 \begin{align*} -\frac{1}{19} &= -(\overline{894736842105263157}9)\\ &= \cdots999999 -(\overline{894736842105263157}8) \\ &= \overline{105263157894736842}1 \\ &= \overline{052631578947368421} \end{align*} となり、やはり、周期$18$で循環する。 ここで得られたものは、上の表で計算した結果$11$桁と確かに一致することが確認できる。 (上の表で、もっと計算を続ければどこまでも今得られた結果と一致する。)